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衰退が危惧されたスペイン映画を救ったものとは?

スペイン映画の現状について語った4人。(左から)マリア、エンリケ、マルタ、エステバン
スペイン映画の現状について語った4人。(左から)マリア、エンリケ、マルタ、エステバン

 今年3月末、スペイン・マラガで開催されたイベント Spanish Screenings にて、スペイン映画界を代表する人々が「スペイン映画の未来」という議題でトークを行った。2008年のリーマンショックをきっかけにスペインで起こった経済危機は、スペイン映画界にも大きな影響を及ぼした。2012年、スペイン政府は増税対策として、日本の消費税にあたる付加価値税の、映画や音楽のチケットを購入する際などにかかる文化関連の税率を8%から21%と一気に引き上げた(※)。それにより、文化の衰退が危惧されてから約5年。スペイン映画はどのような道を歩んできたのか。

ナオミ・ワッツ×ユアン・マクレガー『インポッシブル』【映像】

 この日、『インポッシブル』『28週後…』など話題作に携わってきた名プロデューサーのエンリケ・ロペス・ラビニュ、短編『ザット・ワズント・ミー(英題)/ That Wasn’t Me』(2012)がアカデミー賞短編映画賞にノミネートされた監督エステバン・クレスポジョセフ・ファインズ主演『復活』(2016)などに出演の女優マリア・ボット、スペイン国内で数々の作品を手がけてきた女性プロデューサーのマルタ・ベラスコの4人がそれぞれの経験を通して語った。

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 「長年にわたって、自国の援助を得られず、抜け道を探さなくてはならなかった。海外に目を向けざる得なくなったことで、スペインには才能に溢れた人々がいるのだということを海外に証明できた。この国でよくあることだけど、海外で認められることによって、国内でも話題になる。今もそういう流れがあると思う」とマリアが明かすように、クライシスを乗り越えつつある現状は、海外からのサポートによるものが大きいという。それに同意したのが、スペイン経済危機の真っ只中、アカデミー賞にノミネートされたことで、次なる映画製作につながったというエステバンだ。「オスカーノミネーションは一度限りの幸運な出来事だった。メディアからの注目を浴び、次の映画をつくる機会も与えてくれたんだ。信じないかもしれないけど、その映画の予算の50%をNetflixが出してくれている。Netflixがなければ、その映画はできなかったと思う」。

 マルタも「経済危機がスペイン国内での経済モデルに変化をもたらしたのは確か。他方で、スペインの映像作家たちが海外で活躍したおかげで、NetflixやHBO、そしてAmazonといった新しいプラットフォームが彼らに目をつけて出資するというのが、新たな経済モデルになりつつある」と補足しつつ、「もし、スペインの監督が国際レベルでの活躍を望んでいるのなら、おそらく自国のサポート以上に、彼らが面倒をよく見てくれることでしょう」とさえ言い切る。

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 一方、スペイン国内で起きた変化について、経験豊富なエンリケは「スペインで起きたことは他の国でも同じだと思う。興行収入を見込める娯楽作品に力を注ぎ、映画産業を強化することだった。しかしそれは、作家性の強い作品づくりを目指す人々からの反発を呼んだ。後者の場合、興行収入もなかなか見込めないことから、資金集めが難しい。さらに内容も難解で、理解するのに想像力が必要なものが多いからね。そうして、産業映画と作家主義映画というように、二分されることになった」と説明し、「スペイン国外でうまくいくのは作家主義映画だ。これはスペインだけに当てはまることではない。調べてみれば、これは世界的に起きていることだ。20年前、英語作品として製作されたスペイン映画をプロモーションした際に、気づいたんだ。他の国でも結局のところ、どんな作品を輸出したいか、あるいは輸入したいかと考えた時に、それは言語に関係なく、ある種のアイデンティティーを伴った映画だということに気がついた。とてもしっかりとしたアイデンティティーを持つ映画だ。それは国民性ではなくね」と持論を展開する。

 そしてそれは先にも述べられていた、スペイン映画を支えつつある新プラットフォームの台頭にも深く関わってくるという。「今後何年かかけて、配給や動画配信サービスなどの変化により、作品が自国だけで公開されるのではなく、世界的に公開されるということが当たり前になっていくことで、作品のアイデンティティーの重要性は強くなっていくと思う。もちろん映画の言語が英語である必要はなくなったわけで、でも映画そのものが共通言語であることには変わりない。僕は楽観主義者だし、長年この業界にいるから思うのかもしれないけど、こういった業界の変化はあれど、常に変わらないのは作家主義映画の重要性だと思っている」。Netflixなど新プラットフォームの普及タイミングと重なって、危機克服の糸口を見つけ出したスペイン映画界。危機に迫られてゆえの流れだったのかもしれないが、新プラットフォームが日本でも一般的になった今、スペイン映画界が経験したことから学べることがありそうだ。

 Spanish Screenings は世界に向けてスペイン映画をプロモーションすることを目的としたイベント。11回目を迎えた今回、マラガ映画祭との初コラボレーションが実現し、開催地をマドリードからマラガに移して行われた。(編集部・石神恵美子)

※2017年3月、10%に引き下げられることが発表されている

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