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エドワード・ヤンは映画監督になることを運命づけられた人…ホウ・シャオシェンが語る

取材中にチンピラ風の立ち方・歩き方を実演してみせたホウ・シャオシェン
取材中にチンピラ風の立ち方・歩き方を実演してみせたホウ・シャオシェン

 映画『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』も公開中の台湾ニューシネマの旗手、故エドワード・ヤン監督の長編第2作『台北ストーリー』(1985)が、5月6日に日本初公開を迎える。1980年代半ばの台北の街を背景に、幼なじみの男女のすれ違いを描いた本作で主演を務めたのは、『悲情城市』や『黒衣の刺客』などで知られる台湾映画界を代表する監督ホウ・シャオシェン。キャリア唯一の主演作となるこの映画で、独特の存在感を見せている。

【写真】ヒロイン役のツァイ・チンは後にエドワード・ヤンと結婚

 “主演俳優”として来日したホウに出演の経緯を聞くと「確かなところは覚えてないなぁ……」と言いつつ「確か、脚本を練ってるときにそんな話になったんです」と記憶をたどった。本作では主演のほか、製作、共同脚本としても名を連ねており、製作費まで捻出したという。友人やスタッフ・キャストの面倒見が非常によいことで知られるホウに事の真相を聞いてみると、「小さな商店を出せるようにと、義母が妻のために用意してくれた300万台湾ドルを注ぎ込んだんです」と豪快なエピソードが飛び出した。

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 「300万といったら当時は大金だったけどね。企画が気に入ったから? そんなことは関係ない。エドワード・ヤンが映画を撮りたいと言っている、でも資金が集まらない、“じゃあOK、俺が何とかしよう”というだけの話。その300万も使い果たして、別の友人からも300万借りたけど、その後、彼の娘が映画を撮りたいと言ったときには支援してあげましたよ」。

 思わず“アニキ”と呼びたくなるような男気溢れるエピソードだが、本人はそう褒められるのは不本意だという。「だって当然のことだから。撮影をストップすることはできないから、方法を考えただけのこと。ただ、私はどんなお金を注ぎ込むことにもためらいはないけどね」。

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『台北ストーリー』より。当時38歳のホウ・シャオシェン。 -(C) 3H productions ltd. All Rights Reserved

 劇中、ホウが演じる主人公アリョンは、幼なじみの彼女・アジンの父の事業の失敗を肩代わりしたり、困窮している友人にお金を渡したりと、豪快なホウと人柄がどこか重なる。「エドワード・ヤンは私に私自身を演じてほしかったんです。親しい間柄だったから、彼はこの役に私が合っていると分かっていた。だから現場で全く演出はされなかった。この映画に映っているのは私そのもの。ちょっと格好はつけてるけどね(笑)。小さい頃から地元の仲間と一緒にシマを荒らしに来るヤツをやっつけたり、博打やケンカに明け暮れたり。いきがっていた時代があったんですよ」。

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 ともに台湾ニューシネマをけん引した仲間として、ホウから見たヤン監督の魅力を尋ねると、「純粋で、映画監督になることを運命づけられた人だったと思う」という答えが返ってきた。「絵も上手いし、映画を見る目も優れていた。米国に留学していたから、世界中のいろんな作品を見ていたしね。たしか米国から帰ってきたとき、“I love Herzog”(※ヴェルナー・ヘルツォーク:ヴィム・ヴェンダース、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーらとともにニュー・ジャーマン・シネマの旗手と言われた)って書かれたTシャツを着ていた。ヴェンダースやファスビンダーじゃなく、ヘルツォークというところが彼らしい。仲間うちで当時他にヘルツォークを見てるヤツなんていなかったよ」。

 興行的にはさっぱりだった台湾ニューシネマの時代と比べ、現在の台湾映画界は「良い面も、悪い面もある」という。「問題の一つは出資者集めですね。台湾だけで頑張っている監督もいますが、市場が小さいので外に出て行く必要がある。香港は難しいので、可能性があるとしたら中国。以前は日本やヨーロッパでしたが、今は完全に中国頼みです。でも、中国では公開できないリスクもあるので、厳しい状況にあることに変わりはありません」。ただ、ホウには一つ原則があるという。「集まった資金の範囲で撮るということです。撮影方法を変更すればいいだけで、いくらでも映画は撮れる。お金が足りない? 関係ありませんね」。(取材・文:新田理恵)

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