ジブリ『レッドタートル』に立ちはだかる大きな壁 アカデミー賞受賞の可能性

第89回アカデミー賞

映画『レッドタートル ある島の物語』ポスタービジュアル
映画『レッドタートル ある島の物語』ポスタービジュアル

 現地時間26日(日本時間27日)に結果が発表される第89回米アカデミー賞にノミネート中のスタジオジブリの初の海外共同製作作品『レッドタートル ある島の物語』には受賞の可能性があるのか? これまでのアカデミー賞長編アニメ映画賞の受賞作品を振り返りつつ、その可能性を探ってみた。

【映像】『レッドタートル ある島の物語』予告編

 日仏共同製作作品『レッドタートル』は、無人島に漂着した男の生きようと奮闘する姿を描いた作品だ。監督は第73回アカデミー賞短編アニメ賞に輝いた『岸辺のふたり』などのマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。81分間の全編にわたってセリフというセリフをなくしたことで、キャラクターの滑らかでユニークな動きや尊厳が込められた美しい自然描写で、画(え)の持つ力をシンプルに際立たせ、そしてファンタジー的な要素を織り交ぜながらも「生きる」という普遍的なメッセージを伝えている。

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 第69回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門特別賞を受賞し、その際に海外メディアから好意的なレビューが次々と出たほか、米大手映画批評サイト Rotten Tomatoes では批評家評価において94%の好評価を獲得。アニメ界のアカデミー賞ともいわれる第44回アニー賞ではインディペンデント作品賞を受賞するなど、批評家ウケは良い。さらにセリフなしという要素は、翻訳される際に言葉のニュアンスが損なわれることもなく、作品のすべてを伝えられるという点においてプラスに働く。しかし、観客の想像力に委ねる部分も多く、明らかな大衆向け作品ではないことは、アカデミー賞の受賞作品の傾向を見ると懸念事項にもなりえる。

 昨年もアカデミー賞長編アニメ映画賞に、『Anomalisa/アノマリサ』や『父を探して』など、アート性が高い作品もノミネートされたものの、受賞したのは『インサイド・ヘッド』だった。もちろん『インサイド・ヘッド』が非常に作品として優秀だったこともあるが、ここ10年の受賞作品は『ハッピー フィート』『レミーのおいしいレストラン』『ウォーリー』『カールじいさんの空飛ぶ家』『トイ・ストーリー3』『ランゴ』『メリダとおそろしの森』『アナと雪の女王』『ベイマックス』と、長編アニメ映画部門においては現地の子供・大衆にも受け入れられてきた作品が並んでいる。また宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の受賞(第75回)以来、2D手描き作品の受賞がないことも気になる。実際ハリウッドのアニメーションはディズニーに代表されるように2Dから3Dへと移行しつつあるため、3DCGを見慣れてきたアカデミー会員たちにとって、1フレームごとに変わるコマの“作画”よりも、“動き”の方が評価しやすいという部分もあるのかもしれない。

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一番の壁?『ズートピア』 - Walt Disney Studios Motion Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

 そして今回最も大きな壁として『レッドタートル』の前に立ちはだかるのは、何よりも第89回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされている『ズートピア』の存在だろう。『ズートピア』は、アカデミー賞の前哨戦と言われている第74回ゴールデン・グローブ賞のアニメーション作品賞、2016年ニューヨーク映画批評家協会賞のアニメーション賞などを獲得。第44回アニー賞では、作品賞・長編アニメ監督賞・長編アニメ脚本賞を含む、最多6部門の受賞を果たしており業界内での評価がかなり高い。さらに米大手映画批評サイト Rotten Tomatoes でも批評家評価が98%と『レッドタートル』の数字を超えており、米国興行収入も3億4,000万ドル(約391億円・1ドル115円計算、数字は Box Office Mojo 調べ)超えと大衆からの支持も厚い(『レッドタートル』の上映館は50館に満たず、米興収は45万2,563ドル、約5,204万4,745円だった)。またトランプ政権で揺れている昨今のハリウッド事情で、“差別”について真正面から描いていることも、アカデミー会員の投票に影響を与えていることは間違いないだろう。

 だが、もしもその中で『レッドタートル』が受賞してくれれば、かなりのサプライズとなるはずだ。アメリカ国内産でなくとも、アート性が強い作品でも、2D作画作品でもアカデミー会員から評価されるという一筋の光明となりえる。『レッドタートル』は大逆転を起こすことができるか。(編集部・井本早紀)

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