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男はえん罪か?米司法制度の闇に切り込んだ監督、検察からの圧力を明かす

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「殺人者への道」より
「殺人者への道」より - (C)Netflix

 一人の男にかけられた罪を通して、アメリカの司法制度に切り込み、昨年12月にNetflixで公開されるや、男性はえん罪か否かという物議をいまだにかもし続けているドキュメンタリー「殺人者への道」。本作のメガホンを取ったローラ・リチャーディとモイラ・ディーモスが、製作時に検察からの圧力があったことをインタビューで明かした。

1月に開催されたTCAのパネルにてローラ・リチャーディ&モイラ・ディーモス - (C)Eric Charbonneau / Netflix

 本作でクローズアップされているのは、1985年に身に覚えのない婦女暴行罪で有罪判決を受け18年間服役した後、DNA検査で無実であることが判明し2003年に釈放された男性スティーヴン・エイブリー。しかし彼はその2年後の2005年、新たな殺人事件の第一容疑者となり、再び逮捕された。映像では、彼の家族の言葉や突然主張を翻した彼のおいの裁判、検察による職権乱用、証拠改ざん、証言の強要などが映し出されている。ディーモスは、この作品を撮るきっかけの一つに、「アメリカの刑事司法制度に切り込むきっかけになると考えた」ことがあると言う。

 「この20年の間にDNA鑑定の技術が進み、不当な有罪判決は過去のものであるという議論も活発に交わされてきました。そうした見解を確かめる機会でもあったのです」。だが、撮影を進めていくうちに、彼女たちは、事件はDNAといった生物学的証拠だけで判断できるものではないと考え始めたという。リチャーディは、事件には複雑な要素や事実が絡み合っていると話す。「多くの事例において、さまざまな圧力が裁判に影響を与えており、DNA鑑定結果だけが全ての答えとは言えないのだと考えるようになりました」。

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 また圧力がかかるのは、裁判の当事者たちだけではなかった。彼女たちは取材対象者に自分たちのことや企画概要等を説明する手紙を送り、取材申請をしていたという。その申請を送った先の一人で、特別検察官だったケン・クラッツ氏から、ある要求を受けたとのこと。「2006年9月のことです。手紙に対しては何の返事も受け取ることはなかったのですが、2か月後に彼が召喚状を発し、州がわたしたちの映像に興味があると主張して、映像を提出させようとしたのです。その時点で約300時間分の映像がありました。もし裁判所からその要求に応じるように命令されていたとしたら、製作はストップしていたはずです」(リチャーディ)。

 そのような圧力を受けても彼女たちが製作をやめなかったのは、この映像を通じて、公平さを訴える責任があると思ったから。ディーモスは、「撮影を通してあまりにもたくさんの話が欠如し、抹消されていることがわかりました」と語る。ただ世間がこの作品を観て、釈放を望む署名活動や嘆願書を提出するなどの動きを見せていることは、リチャーディいわく「複雑な気分」だという。「もちろんわたしたちは同シリーズに登場する当事者たちのことを気にかけています。ただしわたしたちやシリーズ自体が、裁判の行方に影響を及ぼそうと思っていたわけではありません。同シリーズによって、刑事司法制度に対する問題提起をしたかったのです」。一方で人々が実際に行動しているということは、まだこの事例は解決しておらず、現行制度に問題があるという認識が広がっているということでもあるため、喜ばしいと思っている部分もあるそう。

 彼女たちによると、シーズン2を発表する用意はまだない。ただ実在の出来事のため、重要な進歩がある場合にはもちろんそれを記録していきたいと考えている。そう話す彼女たちの瞳は真っすぐだった。(編集部・井本早紀)

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