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第19回:『禁じられた遊び』(1952年)

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『禁じられた遊び』ブルーレイ 価格:4,800円+税 発売元:IMAGICA TV 販売元:KADOKAWA
『禁じられた遊び』ブルーレイ 価格:4,800円+税 発売元:IMAGICA TV 販売元:KADOKAWA

 『禁じられた遊び』は、『太陽がいっぱい』などで知られるフランスのルネ・クレマン監督による86分の白黒映画。戦闘シーンをほとんど描くことなく、反戦の訴えを詩的につづった不朽の名作だ。(今祥枝)

 1940年6月、ナチス・ドイツのフランス侵攻による爆撃が激化。パリから郊外へ避難する市民の行列に、ナチスの戦闘機が容赦なく空襲をかける。恐怖で人々が混乱状態に陥る中、逃げ出した愛犬ジョッグを追いかける少女ポーレット(ブリジット・フォッセー)を両親が追いかける。観客が身構える間もなく、両親は橋の上で娘に覆いかぶさると同時に機銃掃射で命を落とす。生き残った少女は同時に死んだ愛犬を抱き、さまよいながら小川のほとりで泣いているところを、郊外に住む少年ミシェル(ジョルジュ・プージュリー)と出会い、貧しくも気のいいミシェルの一家のもとでひとまず暮らすことになる。

 冒頭、両親の背中を撃ち抜く乾いた銃弾の音が、奇妙に軽く感じられるのは気のせいではないはず。あまりもあっけなく、人はただの肉塊となってしまう。その現実はポーレットと同じく観客をも茫然とさせる。インパクトのある始まりだ。だが、映画の大部分は都会っ子のかわいらしく無邪気なポーレットと、彼女が信頼して懐いたミシェルが心を通わせ、大人たちに内緒である遊びに熱中していく様子が描かれる。

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 死んだ愛犬を手放したがらないポーレットに、ミシェルは「死んだものにはお墓を作るんだよ」と教える。ポーレットはジョッグを人気の少ない水車小屋に埋葬して祈りを捧げるが、ひとりぼっちでかわいそうだからもっとたくさんのお墓を作ってあげたいとミシェルにせがむ。ミシェルはさまざまな動物の死体を集めてきて、2人は次々と墓を増やしていく。さらに遊びはエスカレート。十字架を盗んできて、より本物の墓らしくすることに熱中していく。やがてポーレットにねだられたミシェルは、教会の墓地から十字架を盗み出す。

 原題『Jeux Interdits』を直訳した『禁じられた遊び』とは、その行為だけを考えれば、まさに死者を冒涜するものだろう。だが、ポーレットは幼くして「死」に直面し、自分なりに一生懸命「死」の意味を理解しようとしている。その過程で、死んだもののために墓を作って祈りを捧げるという行為(遊び)が、“良い行い”だと思い込んだのかもしれない。あるいは、そうした遊びに夢中になることは、単純に楽しかったのかもしれない。だとしても、2人を責める気持ちにはなれないだろう。

禁じられた遊び
子供の視点から戦争の悲劇を描く『禁じられた遊び』(C)1952 STUDIOCANAL

 ポーレットは5歳で、ミシェルは11歳。もちろん、少なくともミシェルには悪いことだという意識はあっただろう。だが、夜中におそらくは亡くなった両親のことを思い出して叫び出したり、害虫でしかないゴキブリを殺したミシェルに「殺さないで」としくしく泣きだすポーレットを、幼いながらも守ってやらないといけない、なんとか笑顔にしたいと思い自覚的にやってしまったとしても、その心理は十分理解できる。

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 そもそも、子供のやることである。個人的な体験で言えば、その昔、隣人宅でお盆のときに仏壇に供えられる灯籠を初めて見たときに、なんて美しいのだろうと思った記憶がある。ゆらゆらと和紙に壁に模様を映しながら灯が回る灯籠は、見飽きることがなかった。家にも仏壇はあったから、きれいだなんて心が弾んだことに後ろめたさがあったことも覚えている。7~8歳の頃だったろうか。だから、劇中でポーレットが教会で美しく輝く十字架を見上げて目を輝かせ、あれが欲しいとミシェルにお願いするシーンに、子供とはそんなものではないかとも思うのだ。もちろん、ミシェルの行為は子供だからと言って許される範囲を超えており、高い代償を払うことになるのだが……。

 ポーレットが、もうパパとママは最後に見た橋の上にはいない、ジョッグのように穴の中=お墓の中にいるとミシェルに言われて、雨に濡れないかしらと心配するシーンがたまらなく悲しい。両親の死、たくさんの生き物の死、怪我が悪化したミシェルの兄の死。そして爆撃の閃光が花火のように夜空を照らし、大人たちは戦禍がいよいよもってそこまで迫り、「死」を強く意識している。そうした大人の不安や時代の不穏な空気を子供は日々肌で感じ取っている。

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 ポーレットやミシェルのように幼くして常に「死」と隣り合わせであるとは、どういうことなのか。この時代に生まれたから仕方がないのか? あるいは、平時であっても幼くして「死」と対峙する状況はあり得る。だが、戦争孤児となったポーレットの後ろ姿が人混みの中へと消えていくラストシーンに、戦争の残酷さを思わない人はいないだろう。なぜ大人が始めた戦争のつけを、何の責任もない子供たちが払わなければならないのか。あまりにも理不尽だ。そして、世界はいまだにポーレットのような子供たちを大量に生み出し続けている。私たちは歴史から何を学んだのだろうかと考えずにはいられない。

 キャストはほとんどが無名の人々。特に注目を浴びたポーレット役のブリジット・フォッセーも、世界的に大ヒットした本作でデビューを飾った。名子役として名を馳せ、一時期学業に専念した後、女優業に復帰。『ラ・ブーム』(1980)でのソフィー・マルソーの母親役でも記憶している人も多いに違いない。だが、なんといっても本作のポーレット役の愛らしさ、無垢さを体現する演技は万人の胸を打つものがあり忘れがたい。

 このフォッセーの名演に加えて、哀切に満ちたテーマ曲「愛のロマンス」を抜きには本作を語ることはできない。撮影で予算を使い果たしたクレマンは、スペインのギタリスト、アンドレス・セゴビアに楽曲を依頼するつもりだったが費用で折り合いがつかず、当時新人だった、同じくスペインのギタリスト、ナルシソ・イエペスに依頼。編曲・構成、演奏をギター一本で行ったこのテーマ曲は、映画が公開されるとこちらも大ヒットを記録し、現在に至るまで多くのアーティストによってカバーされている。映画は、第25回アカデミー賞外国語映画賞(※当時は名誉外国語映画賞)、第13回ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。

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