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バトル・オブ・ザ・セクシーズ (2017):映画短評

バトル・オブ・ザ・セクシーズ (2017)

2018年7月6日公開 122分

バトル・オブ・ザ・セクシーズ
(C) 2018 Twentieth Century Fox

ライター8人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.3

中山 治美

「女が上とか言ってない。ただ敬意を払って欲しいだけ」

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

秀作には名台詞がある。
見出しのセリフは、男尊女卑が罷り通っていた45年前、ややもすれば茶番になりかねなかった性差を超えたに挑んだビリー・ジーンの心情を見事に表現している。
オスカーの栄光を早くも脱ぎ捨て、心身共に変貌したエマ・ストーンの熱演も相まって、魂のこもった言葉となった。
ただ鑑賞後に現実に戻ると、今も変わらぬ問題がはびこっていることに愕然とする。
それでも、少なくとも米国で即座に#MeTooムーブメントが起こったのは彼女らが切り拓いた歴史があったからだろう。
選手引退後は、女性や同性愛者などの支援活動を続けているという。
先の台詞が響くのは何より、今にも通じるからに他ならない。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

男尊女卑との格闘×性的指向への覚醒という「抑圧」のレイヤー

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 男性優位社会の中で差別に苦しむ女子テニスプレイヤー。#MeeToo運動の波以前の企画だが、ウーマンリヴの時代の実話がこうも現代性を帯びてしまうのは、時代の“空気”が変わり監視は強まっても、本質が変わっていない証。男尊女卑との暗闘を、肉化したエンタメに昇華した構造が見事だ。そしてヒロインが、自らの本当の性的指向に目覚めるエピソードが抑圧のドラマに奥行きを与え、脇を固める助言者アラン・カミングの存在が味わいを深める。衣装やメイクはもちろん、現代的な映像処理を極力排し、35ミリフィルムと当時の撮影手法だけを用いて再現した映像のルックは、あの頃へたちまちスリップさせてしまう効果がある。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

今の時代が可能にした「かつて作られなかったウーマンリブ映画」

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

ビリー・ジーン(E・ストーン)の運転する車(1970年式ポンティアック ル・マン)の助手席にマリリン(A・ライズブロー)が乗り込み、カリフォルニア沿岸を走る画にエルトン・ジョンの名曲「ロケットマン」が流れる。このシーンが良すぎて何度も脳内再生してしまう。アイテムと映像の質感で感動的な「73年の風景」を新たに創造。映画の“歴史を語り直す力”の凄さを改めて実感する。

もし『ジュリア』『グッバイガール』の頃に作られていたら…という想像を、♯MeToo時代から二重写しの視点でさせる面白さ。スポーツ映画にしては生硬な理念が前に出過ぎた感もあるが、S・カレルの道化力が痛快エンタメの域に昇華してくれる。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

男女間に優劣がないことを証明する35年前の戦いは今に続く

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ウーマンリブが社会的ムーブメントとなった’70年代。プロテニス界における男女の不当な待遇格差を是正するため、元世界チャンピオンの男子選手との試合に挑んだ現役女子チャンピオン、ビリー・ジーン・キングの実話を描く。
 「男は女よりも体力が勝るから待遇も違って当たり前」という男性優位主義者の主張は、「これは差別ではなく区別だ」という差別主義者の常套句と同様の詭弁だ。男の土俵で比較すれば女が不利になるのは当然(逆もまた然り)だし、そもそも性差=優劣ではないはずなのだが、当の女性までもがこの誤った先入観に囚われやすいのは、恐らく現在もあまり変わりないかもしれない。これは今にも続く戦いと言えるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

闘わず、認めるセクシュアリティ

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

現在にも通じる男女差別のテーマや、主演2人の巧妙な演技、そして何より、世紀の一戦となったゲームの見やすさ→怒涛の興奮、と多くの要素が上出来だが、主人公ビリー・ジーンがセクシュアリティを自覚するストーリーがきっちり描かれている姿勢に好感がもてる。

同性に惹かれる美容室シーンの丁寧な演出や、固定観念から脱する苦闘もさることながら、女性の恋人の存在を察しつつ、テニス選手としてのビリー・ジーンを(一時期でも)支えた夫の献身という、当事者以外への監督たちの目線も心にくいばかり。さりげないほど誠実な演出の積み重ねで、ロッカールームで一人、万感の思いが込み上げるビリー・ジーンに、激しく心が揺さぶられた。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

70`sに強制ダイブ!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

マルチナ・ナブラチロワにも大きな影響を与えた1973年の「男女対抗試合」の映画化だが、リヌス・サンドグレンの撮影が素晴らしい! 35mmフィルム撮影に、『ナッシュビル』などを意識したルックもあり、冒頭から70`sに強制ダイブした感覚に陥るだろう。エマ・ストーンとスティーブ・カレル(妻役はエリザベス・シュー!)の本人なりきり演技バトルに、白熱の試合、近年の#MeToo運動にも繋がる展開も見どころだが、『リトル・ミス・サンシャイン』の監督コンビだけに、それぞれのキャラが愛らしく描かれると同時に、ロードムービーとしての醍醐味もアリ。アラン・カミングのキャスティングも、笑えるほどドンズバだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

主人公2人がそれぞれ個別の戦いをなし遂げる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 実際に起きた出来事だが、それを女性による権利闘争のドラマとして描かないところがいい。もちろん、映画は"女性VS男性の戦い"と呼ばれて注目を集めたテニスの試合を描いている。だが、実際に戦った選手2人にとって、この戦いは性差別の撤廃のためのものではなく、それぞれにとって個人的な意味を持つ戦いであり、双方ともが充分に力を尽くし、それぞれの戦いを全うした。この映画はそういう物語を描いていく。
 監督は、問題児ぞろいの一家を描く「リトル・ミス・サンシャイン」のコンビ、ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス。選手2人だけでなく、彼らの家族やマネージャーなど周囲の人々の描写も細やかだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

今のハリウッドと同じことがこの時代すでに起こっていた

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

近年、ハリウッドでは、男優と女優のギャラの格差に焦点が当たっている。45年前のスポーツ界を舞台にするこの映画も、まさに同じ話。当時、スポーツ界では、女性の試合は男性の試合より興味をもたれないと決めつけられ、女性選手のギャラは低かったのだ。ハリウッドの論理も同じで、そう判断するのはどちらも当然、白人の男たち。あの時代にこれらの女性が闘っていたことは、大きな勇気を与えてくれる。ほかにLGBTの要素にも触れるのだが、決して説教くさくなることはなく、人間ドラマとして十分に楽しめる。嫌な男ボビー・リッグスを、勇気を持ち、かつコミカルに演じたスティーブ・カレルにも拍手。

この短評にはネタバレを含んでいます
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