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『ミッドウェイ』豊川悦司 単独インタビュー

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『ミッドウェイ』豊川悦司 単独インタビュー

若い観客にこそ観てほしい

取材・文:斉藤博昭 写真:高野広美

『インデペンデンス・デイ』のヒットメーカー、ローランド・エメリッヒ監督が、第2次世界大戦における日米決戦の運命を分けたミッドウェイ海戦を壮大なスケールで映画化。このハリウッド超大作『ミッドウェイ』には、日本を代表する俳優たちも参加した。その中の一人で、日本の連合艦隊の指揮をとる山本五十六を演じたのが、豊川悦司だ。どんな思いで、歴史に残る司令長官役に挑んだのか? そしてハリウッド映画の撮影現場の印象は? 髪を短くカットし、これまでのイメージをガラリと変える外見で渾身の演技もみせた豊川悦司が語った。

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監督からのラブコールで迷いも消えた

豊川悦司

Q:山本五十六役のオファーを受けた時の心境から聞かせてください。

僕という存在を、ローランド(・エメリッヒ)さん、プロデューサーたちがなぜ知ったのか。まず不思議に思いましたね。後から日本側で窓口になった人が推薦してくれたと聞いたのですが、それでも正直、びっくりしたのは事実です。日本では、山本五十六はとても有名な人物ですし、僕のイメージとギャップがあるのではないかと……。

Q:では、受けるかどうか迷ったのですか?

最初は迷いました。でもローランドさんやプロデューサーから手紙をいただき、その内容がとても熱いもので、チャレンジしてみようと決意できた。その後、僕の英語を聞きたいというローランドさんに動画を送りました。そうしたらすぐに「きみの持っている“らしくない”部分に惹かれた」と返事が届きました。

Q:“山本五十六らしくない”という起用の理由は、意外ですね。

『ミッドウェイ』の映画は1970年代にハリウッドで作られています。実在の人物とはいえ、自分の映画ではキャラクターを変えたかったようですね。

25年前は怖いもの知らずだった

豊川悦司

Q:豊川さんの海外作品への出演といえば、25年前にラッセル・クロウと共演した『NO WAY BACK/逃走遊戯』もありました。プレッシャーは変わりましたか?

ラッセルさんと共演した時は僕自身、怖いもの知らずでした。指示されたら、20階建てのビルからも飛び降りたでしょう(笑)。「なんでもできる」と高をくくっていた時代です。今は経験も積み、客観的に自分という人間を把握できています。こういった戦争映画の場合、遺族の方もいらっしゃるし、戦争観も人それぞれ違う。デリケートな題材で、しかもアメリカ映画。ですから今回は「日本の観客にちゃんと受け止めてもらえるか?」というプレッシャーがありました。

Q:ただ、この『ミッドウェイ』はハリウッド映画とは思えないほど、日本側の視点がしっかり描かれています。

それは脚本を読んだ段階でわかりました。もちろんフィフティ・フィフティではありません。でも少なくとも、日本で作られた戦争映画における敵国の描写より、この作品の方がきっちり(日本側を)描くことができると感じたのです。日本人キャストを不快な気分にさせないという、プロデューサーの強い意向があったようですね。

Q:エメリッヒ監督も、そのようなアプローチだったわけですね。

ローランドさんはドイツ人なので、こうした題材をやりたかったようです。とはいえ、ストレートにアメリカ対ドイツの映画を作るのではなく、史実にフィクションを入れ込み、自分が培った映像技術を生かせるということで、ミッドウェイ海戦に取り組んだのは、クリエイターとしての判断でしょう。

Q:エメリッヒ監督は、山本五十六をどんな人物ととらえていたのでしょう。

戦略家としての優秀さより、アメリカと戦争せざるをえなかった苦悩をクローズアップしたかったようです。(欧米では)山本五十六が反戦論者であったという見方が浸透しているみたいで、そこを守りたかったのではないでしょうか。

Q:豊川さん自身は、山本五十六役にどうアプローチしたのですか?

一般的に僕は「軍人」というイメージから程遠いし、戦争映画に出演するとは考えてもいませんでした。ですから参考になりそうな本を何冊も読み、錚々たる俳優の方々が山本五十六を演じた映画化作品を観ました。でも僕らの仕事は、偉人を演じるにあたっても、その人がどう食事をして、どう眠ったかなど日常を表現するわけで、より人間的、個人的な部分に集中しました。山本五十六が東京に空襲があったことを知らされ、愕然とするシーンがありますが、そうした出来事を通してキャラクターが形成されていきます。「英雄」として描かれるわけではありません。

英語のセリフは2か月間トレーニング

豊川悦司

Q:セリフに対して、豊川さんが意見を言ったことは?

ほぼ脚本どおりですね。アメリカとの開戦を聞いて思わず「眠れる巨人を起こしてしまった」と吐露しますが、多くのセリフは感情を表に出すものではありません。ただ、言い回しに関しては、(共演の)浅野さんと「ここは現代的にしよう」とか話していました。

Q:浅野忠信さんはハリウッド映画での経験も豊富ですからね。

彼が一緒というだけで安心できました。通訳なしで周囲とコミュニケーションがとれる部分は、うらやましかったですね。

Q:豊川さんも英語のセリフを流暢にこなしていましたが……。

いや、自分としては満足していません。もっとできるだろうと思ってましたが、難しかったですね。だいたい2か月間くらい、週に2~3回、ダイアログコーチからSkypeでレッスンを受けていました。ローランドさんからも「英語のセリフを吹き替えにしたくないので頑張ってくれ」と言われたんです。

Q:『ミッドウェイ』の撮影はモントリオールで行われました。

撮影スタイルそのものは日本と変わりませんが、関わっている人の数は格段に多かったです。屋外のロケでは、土地の広さを実感しました。日本だと撮影現場で「車をどこに停めればいいか」「(カメラに映りこまないような)逃げ場がない」なんてことも多いですが、カナダは政府が全面協力してくれて、どの場所も使いたい放題なんです。近くを通る人も、(撮影中に)止まってくれと言われると、何分でもその場で待ってくれたり……。文化の違いなんでしょうか。撮影環境が良すぎて、このままカナダで俳優業を続けられないかな、って思ったりしたほどです(笑)。

Q:『ミッドウェイ』をきっかけに、海外での仕事にも積極的になりそうですね。

年齢が年齢なので、どれくらい可能性があるかわかりませんが、アメリカに限らず、今後、違う文化で作られる映画に関われたらうれしいです。

海外での評価を思わず検索

豊川悦司

Q:完成した『ミッドウェイ』を観た、率直な感想を聞かせてください。

さすが、ローランド・エメリッヒ監督の作品ですね。「この視点で、こう展開するのか」という流れがダイナミックに感じられたのです。アトラクション気分と言ったら語弊がありますけれど、アクション映画としてすばらしかったですね。

Q:あらためて、自身が演じた山本五十六をどう受け止めていますか?

ふだん自分の出演作は観ないこともありますが、この作品はしっかり観ました。仲間として受け入れられ、いい役に取り組み、楽しく仕事ができましたから。実際の山本五十六さんは小柄で小太り。見た目も柔らかな印象で、僕自身とはかなり違います。今回は、自分と距離がある分、近づこうと作り込んだので、演じる面白さを感じたのでしょう。本当に役者冥利につきる感覚です。

Q:『ミッドウェイ』はすでにアメリカで公開され、大ヒットでした。

公開された時は気になって、インターネットで検索し、いろいろな批評を読みあさりました(笑)。戦争映画として史実にしっかり向き合った結果、アメリカの観客にも「日本側をちゃんと描いている」と好意的に受け止められたようで、総じて評判が良かったので安心しました。

Q:日本でも多くの人に観てもらいたいですよね。

特に若い観客に観てほしいですね。いろいろな映像を観慣れた人にとっても、この映画のダイナミックな映像は格別だと思います。そして遠い過去になりつつある戦争という出来事に、自分の目で触れ、知ってもらえたらうれしいです。学校の授業で『ミッドウェイ』を観て、レポートを書いてもらう、なんてアイデアもいいんじゃないでしょうか。


豊川悦司

俳優としては「超」がつくほどベテランの豊川悦司にとっても、今回の『ミッドウェイ』での経験は特別だったようだ。満足げにインタビューに答える姿は、イメージどおりのクールな“トヨエツ”。しかし言葉の端々から熱いパッションが伝わってきた。劇中の山本五十六は、短くカットされた髪型のせいもあるが、ふだんの彼のイメージとはまったく違う。おそらく豊川自身も、自分の新たな可能性を発見したのかもしれない。本人も期待感をこめて語っているように、『ミッドウェイ』をきっかけに、海外からのオファーも増えていくのではないか。

Midway (C) 2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.

映画『ミッドウェイ』は9月11日より全国公開

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