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『ステップ』山田孝之 単独インタビュー

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『ステップ』山田孝之 単独インタビュー

妻のありがたみを知った

取材・文:浅見祥子 写真:日吉永遠

重松清による原作を、『大人ドロップ』『虹色デイズ』の飯塚健が脚色&監督した映画『ステップ』に山田孝之が主演した。彼が演じるのは妻を亡くし、幼い娘の美紀を男手一つで育てる会社員・健一。シングルファーザーとして慣れない家事に育児、時短勤務で肩身が狭い職場にヘトヘトになりながらも娘の成長に一喜一憂する。健一と美紀の10年間を描く人間ドラマ。そんなまっすぐな物語に、“クセ者俳優”山田孝之は如何に対峙したのだろう?

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娘と息子の子育ては別モノと実感

山田孝之

Q:監督自ら脚色した台本や撮影現場で演出を受け、監督の父親としての想いを感じる瞬間がありましたか?

この企画をいただいたときですね。自分が父親になったからこれを描きたかったのだろうと思いました。飯塚さんは子どもができて人間としてどう変わったのかな? と撮影に行ったら、全然変わってなかったです。攻める攻める!

Q:娘を育てるのは息子を育てるのとは違うものでしたか?

息子だとケガをしても「元気に生きてくれればいい」とほったらかしなところがありますが、女の子だと心配が増えるので神経質になります。娘にとって父としてかっこよくありたい! という思いもあるから、娘の前では多少の芝居というか嘘があるかも。撮影で娘がいるという疑似体験を1か月ほどしてみて、子どもへの自身の見せ方が違ってくると思いました。ひょっとしたらお母さんも息子がいると、授業参観ではちょっとキレイに見せようと頑張ったりするのかも。自分の幼少期を思い返しても「誰のママがキレイ?」などと言い合い、友達に自分の母親をほめられるとちょっと誇らしい、みたいなことがありましたね。

娘を育てる疑似体験

山田孝之

Q:映画の前半、娘の美紀が小さいころは観ていて辛くなりました。

2歳くらいだと理屈が通用しないですからね、イエスかノーしかない。イヤなときはイヤで、こちらの言う通りになんてしてくれないから無理やり先に進めるしかなかったりして。でもそうしたことを疑似体験すると、妻のありがたみがわかります。感謝しなきゃなって思いました。

Q:どのような変化がありましたか?

家族が寝ている時間に帰宅したとき、使った食器が流しに置かれていて。「明日の朝起きて洗うのか……。これくらいの量だし、洗っとくか」みたいなこともありました。妊娠中や出産直後はそうしたことを積極的にやってサポートしなきゃ! と思っていましたが、子どもが育って自分でできることが増えていくと、奥さんの負担も減りますよね。それに甘え、当たり前にしていたことをやらなくなっていました。これを機にしっかり家事をやるようになることはないでしょうが、それでもやっぱり子育ては大変なのだから、できる範囲でやれれば。でも無理はしません、僕もめっちゃ外で働いているので。

子役にも対等に接する

山田孝之

Q:子どもとして接するより、一緒に作品をつくる仲間として構えないようにしていたと以前、『デイアンドナイト』のインタビューでおっしゃっていましたが、美紀を演じた子たちも同様でしたか?

同じ人間なので、対等に。興味があるものを尋ねたり、これは知らないだろうな……ということを言ってみたり。例えば「電車ってなんの燃料で動くか知ってる?」ってひっかけ問題みたいですよね。車がガソリンで動くのは知っているだろうから、石油由来の燃料? と思いそうなところを、実は電気だよ! と教える。するとたいした知識じゃないのに「へ~!」となるから、パパすごいだろ? みたいな(笑)。

Q:本当の親子みたいな会話ですね。

美紀の6~8歳を演じた(白鳥)玉季くらいの年齢になると恋愛話が出るんです。「私の友達が……」って話し始めるから、きっと本人のことだろうと思って聞いてると「でも私はこうだったから……」と口を滑らせて。あっいま、私って言った! って。かわいいんですよ。

まっすぐ受け止め、素直に行動する

山田孝之

Q:以前「演技は正解がないものと思われるかもしれませんが、自分の中ではハッキリとした正解がある」とおっしゃっていました。会社員という役柄でもそうした正解があったのでしょうか?

こういう状況に置かれ、こんなことを言われたら自分はどう思うだろう? 今回はそんな風に、起きたことをそのまま受け止めようとしていました。立ち方や話し方にハッキリとした正解があるキャラクターをつくることはやっていません。その必要がなかったので。ウシジマくんやヨシヒコのときは、つくらなきゃいけないからつくりましたけど。

Q:それ以外に、健一を演じる上で大事にしたことはありますか?

いわゆるハッピーな心温まる感動ストーリーや、いかにもつくりものに思える作品は時代と合っていない気がします。誰もがただやさしいのではなく、辛かったり葛藤があったりする方がいい。この映画には人間の汚い部分、憎しみのようなものがほとんど出てこないから、そこは健一が担わないといけないと思っていました。美紀の担任の先生と対峙するシーンはとことん、コイツなにもわかってね~な! という怒りのようなものを思いっきり出そうとしました。あと美紀が2歳くらいのころ、ぐずったときは、それを優しく受け入れるのではなく、本気でイラついてました。それであとになって、大人げないことしちゃった……と反省する。そうしたことが人間らしさにつながり、より観た人に伝わるはずだと。

Q:完成作を観た感想は?

いわゆるお芝居をせず、素直にそのときを生きていたので、自分の演技をチェックする感覚でもないんですよね。いつもなら、ここの間はどうか? とか、考えるけど。とはいえ、いい映画だったのかどうかは自分ではわかりません。ただ観た人は……ちょっとやさしくなれると思います。こんな言葉で締めたくないけど(笑)。


山田孝之

プロデュース、経営、アーティスト活動、執筆業、監督とさまざまな分野へ果敢に進出する山田孝之。俳優として誰もが認める演技派で、もはやどんな役を務めても驚かないが、会社員の主人公をナチュラルに、見応えある演技に仕上げる俳優としての底力に改めて驚く。作品について語る姿もまた、自然な佇まい。こちらの質問を丁寧に聞き、素直に率直に語る。これもまた山田孝之という人の素顔。どれが本当の? という疑問は、彼のような演技派にはヤボなのかもしれない。

(C) 2020映画『ステップ』製作委員会

映画『ステップ』は近日公開

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