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『ラストレター』松たか子 単独インタビュー

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『ラストレター』松たか子 単独インタビュー

約21年ぶりの岩井俊二作品に喜びと迷い

取材・文:磯部正和 写真:上野裕二

人の感情や美しい風景の瞬間を瑞々しく切り取ってきた映像作家・岩井俊二監督が、『Love Letter』(1995)に続いて、手紙と行き違いをキーワードにした映画『ラストレター』。本作で、主人公・岸辺野裕里を演じているのが、1998年公開の初主演映画『四月物語』以来、岩井監督と約21年ぶりにタッグを組んだ松たか子だ。『四月物語』のときは初々しさが目立った可憐な女優が、長い年月を経て日本を代表する名優へと変貌。松にとってこの20年はどんな時間だったのか? その思いを語った。

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岩井監督と約21年ぶりのタッグ

松たか子

Q:岩井監督と松たか子さんが約21年ぶりにタッグを組むというのは、ワクワクするようなニュースでした。

すごく久々だったので、また声をかけていただけたことが嬉しい気持ちでいっぱいでした。が、一方で「わたしでいいのかしら」とも思いました。

Q:そこにはどんな感情が?

わたしが以前出演した岩井監督の『四月物語』は、特殊な環境で撮った、ある意味で自主映画のような中編映画。限られた条件だからこそ実現した感覚があり、とても楽しかったのですが、今回は規模も大きく、緊張感もその分あって。

Q:久々の岩井組はいかがでしたか?

『四月物語』のときもそうでしたが、岩井監督はあまり俳優に対して「こうしてほしい」とおっしゃらない方なんですよね。『ラストレター』でも福山雅治さん演じる小説家の乙坂鏡史郎と出会うシーンなど、いくつかは指示がありましたが、基本的には俳優が自由にやっているところを、いつの間にか切り取っている感じがします。そこは変わっていませんでした。

Q:夫役の庵野秀明さんや、姑役の水越けいこさん、姑の恩師役の小室等さんら、普段お芝居をされていない方との共演シーンもありましたね。

皆さん自由なのですが、そのうえわたしが演じた裕里の家には大きな犬がいて、本番でも奔放に動いてしまうんです。それでも、皆さんはまったく動じず芝居を続けていて、わたしは「続けるんだ!」と驚きながらも、カメラも止まらないので……。誰も芝居にある間や空間を埋めようとしない(笑)。裕里は、ややおっちょこちょいでワタワタする部分がある役でしたが、そんな予測不可能な現場の中で、裕里らしさを見つけることができたとも思います。すごく勉強になった現場でした。

『四月物語』の卯月との共通点

松たか子

Q:作品を観ていると、随所に『四月物語』で演じた卯月と、今回演じた裕里の共通点を感じました。

岩井監督も意識して似せたわけではないけれど、『四月物語』の卯月みたいになったなと話していました。でもそれって、わたしが『四月物語』のときから成長していないのかな……なんて思ったり?(笑)

Q:ファンからすると、そういう共通点が嬉しいもので。

卯月と裕里には“うっかり者”という共通点はあるかもしれませんね。でもそういうわたしがいたり、(岩井監督の『Love Letter』に出演していた)中山美穂さんや豊川悦司さんが、まったく違う形で出ていらしたりするのも面白いですよね。

Q:松さんご自身は、卯月と裕里には似たところがあるという意識はなかったのですか?

あまり意識はしていませんでした。ただ卯月も裕里も、実際は「報われていない」のかもしれませんが、本人は何となく満足しているという共通点は感じていました。だからと言って面影を残そうというような意識はなかったですね。

作品に自分の気持ちは関係ない

松たか子

Q:映画初主演作が『四月物語』。そこから長く女優活動を続けていますが、今でも大変だったり苦しいと思ったりすることはありますか?

舞台などでは、その都度ヘトヘトになってしまうことが多いのですが、本当に苦しかったらお仕事にしていないと思うんです。演じる側が大変だと思っても、お客さんが楽しみ、喜んでいただけると「それでいいんだ」と毎回思います。作品にとって自分の気持ちはあまり関係ないんですよね。

Q:そういった感覚は、お芝居を始めたときから持っていましたか?

強く印象に残っているのが、10代のときにある映画を観たとき、出演している俳優さんがすごく癖のあるお芝居をしていたんです。最初はちょっと苦手かなと思っていたのですが、その方が映っていないときに無意識に頭の中で、その方の姿を想像していたんです。それってすごいことですよね。ちょうどお芝居に興味を持ったころだったのですが、そこまで観ている人の心に何かを残すというのはすごいことだと思いました。

Q:お客さんにどう届くかが大切?

そうですね。わたしのことが印象に残らなくても作品を観たあと「何かわからないけれど元気になった」「心が躍った」といったことを感じてもらえたらいいなという気持ちでやらせていただいています。

岩井監督はズバリ何がすごい?

松たか子

Q:今回共演した広瀬すずさん(裕里の姉・美咲と、その娘・鮎美の一人二役)森七菜(裕里の娘・颯香と、裕里の少女時代の一人二役)さんは『四月物語』のころの松さんぐらいの年ですね。

二人ともすごく落ち着いていますね。しっかりしているというか、頼りになりました。わたしが『四月物語』の撮影を行っていたときは楽しかったのですが、現場のスタッフさんたちに教わることが多かったですからね。

Q:頼もしいというのがすごいですね。

特にすずちゃんは、いろいろ経験していますからね。でも決して慣れているという感じではなくて。岩井監督の現場は初めてなので、よく周囲を見て観察していたように思います。そういった部分を含めて頼もしいなという感じがしました。

Q:岩井監督の現場は、どういったところがほかの現場と違うのでしょうか?

何よりすごいと感じるのは集中力ですね。とにかくやりたいと思ったことは、どんなことがあってもやってしまう。例えば、あるシーンで撮りたい画のために照明が気になりだして、試行錯誤しているうちに昼の場面なのに日が暮れて暗くなってしまったんです。真っ暗な中、お昼のつもりでお芝居するのはとても大変でした。こうと決めたときの集中力は、山田洋次監督に近いものがありました。


松たか子

女性を瑞々しく映し出すことに定評がある岩井俊二監督。『四月物語』で松が演じた卯月は、岩井作品好きの中でもファンの多いキャラクターだ。そんな彼女が21年の歳月を経て、また岩井組に戻って来た。ちょっとおっちょこちょいで健気……ここ一番というときに縮んでしまう小心者な部分など、卯月と本作で演じた裕里には共通点が多い。2019年を「充実過ぎるぐらい充実していた」と笑顔で振り返っていたが、2020年も本作を皮切りにさらなる活躍が期待される。

(C) 2020「ラストレター」製作委員会

映画『ラストレター』は1月17日より全国公開

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