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『轢き逃げ -最高の最悪な日-』水谷豊 単独インタビュー

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『轢き逃げ -最高の最悪な日-』水谷豊 単独インタビュー

何かやらなきゃとずっと思い続けてる

取材・文:高山亜紀 写真:高野広美

『TAP THE LAST SHOW』で監督デビューを果たした水谷豊が、監督2作目『轢き逃げ -最高の最悪な日-』では初めて脚本も手掛けた。地方都市で起こった“轢き逃げ”事件から繰り広げられる人間ドラマ。結婚を控えて幸せの絶頂にありながら、轢き逃げ事件を起こしてしまう大企業のエリート社員と、助手席にいたために共犯となる同僚の親友。主演の二人にはオーディションで中山麻聖と石田法嗣が選ばれた。被害者の父親役で出演もしている水谷が、制作の舞台裏を明かした。

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自然と始まっていた脚本家の仕事

水谷豊

Q:監督2作目で脚本も手掛けることになった経緯を教えてください。

それが「僕が脚本をやります」というのは一切なく、自然と始まってしまったんです。「2作目はサスペンスタッチで」という話になって、僕の頭に浮かんだストーリーをどんな感じかみんなにわかるように書いてみようと思って書き出してみたらどんどんできてきて、結局、そのまま僕が書くことになったということなんです。

Q:アイデアはどこからきて、どのように書いていったんですか?

最後まで全部を決めて、書いたわけではないんです。だいたいストーリー上、大きく起きることのイメージがあり、書き進めているうちに、別の世界が気になるんですね。「さっき出てきた彼はどうなった?」「彼女は何をやっている?」「その家族はどんなことを思っている?」……そんなことを思いながら、どんどん進めていったんです。

Q:タイトルはどうやって決まったのでしょう?

最初は「最高の最悪な日」という、いまのサブタイトルが仮で付いていたんですが、いざ正式なタイトルを付けるときになって、製作総指揮の早河(洋)さんが「そのまま、『轢き逃げ』でどうですか」と言うので、僕も「これがもし小説なら間違いなく、そうするな」と思ったんです。余分な説明はいらない。轢き逃げが起こるんだろうと誰でも想像できます。大事なのはその後。轢き逃げによってどんなドラマが生まれるのか。観る側が興味を持ちやすいんじゃないかとも思いました。

大変だからこそ力を発揮できる

水谷豊

Q:脚本・監督・出演の一人三役は大変な作業だったのではないですか?

いま思えばどれも大変なことですが、監督も脚本を書くということも必然でした。どうも自分は大変なことを楽しむ傾向があるようです(笑)。大変だからこそ面白い。大変なところに身を置かないと、人というのはなかなか自分の持っている力を発揮しないものですしね。最終的には僕がイメージして書いたものをスタッフやキャストみんなが映像にしていってくれる世界です。はたから見たら大変なことかもしれないけれど、僕にとっては楽しいことなんです。

Q:今後は一人四役に挑戦することもありますか?

これ以上は増えないです(笑)。むしろ、減らしていきたい。「もう出なくてもいいな」と自分では思うのですが、みんなが「出なきゃだめ」と言うものですから。

Q:監督しながら出演すると、気にかかったりしませんか?

これが意外とないんです。役者としての自分は何も考えないでそこにいればいいだけ。監督として現場にずっといるから、役者をやる場合にはすでに世界観を理解している。改めて俳優として考えることはないんです。

Q:脚本の場合はどうですか?

現場に入ると脚本とは別に監督としての発想が出てくるんです。今回楽だったのは、その際に脚本家に確認しなくてもいい点ですね(笑)。

俳優という職業の厳しさ

水谷豊

Q:主演の二人は今回、オーディションで選ばれたそうですね。

たくさん応募があったらしいです。俳優というのはいい仕事に出会えそうで、なかなか出会えない大変な世界です。そういう思いの人が大勢、俳優をやっているのですから、この機会にぜひ、その中から選びたいと思いました。オーディションで選べば、観ている方にとって何が起こるかわからないリアルで生々しい感じが生まれるとも思いました。

Q:選ばれた二人にとって水谷さんの演出を受けることは貴重な体験になったと思います。彼らに対して思うことはありますか?

いろんな監督、現場、脚本があります。俳優は脚本を読んで現場に行きますが、現場は経験してみないとわからないことが多いし、演じる役柄も経験していないことがほとんどです。俳優というのはとても不安な状態でいるわけです。そのときに自分の芝居の「寄りかかりどころ」みたいなものがあるんです。彼らにはそれを見つけてほしいと思いました。間違ったものに寄りかかると芝居が間違ったものになってしまう。経験していくことで何かいい「寄りかかりどころ」を見つけてほしいと思いました。

Q:水谷さんの「寄りかかりどころ」というのは、どういったものなんですか?

言葉で説明するのはすごく難しいです。僕の場合、俳優としては台本を読んで、キャラクターの人生を生きるという意味になってくるんですが「このシーンでここに行きたい」とイメージして行きたいところがあるんです。監督としても「みんながここに行ってほしい」というところがあります。そこにたどり着いたかどうか。「たどり着いた。その世界に行けた」という感覚は自分の中のことなんです。たとえ、周りの誰かが何と言おうと自分がたどり着けていれば、たどり着いている。それを持てるかどうかが、とても難しい。何か自分でそう思えるものを見つけてほしいと思ったんです。

岸部一徳の素晴らしさ

水谷豊

Q:ベテラン刑事役の岸部一徳さんとの共演もまた実現して感無量です。岸部さんのパートは当て書きですか?

やっぱりイメージして書いていますね。決して厳しい言葉で威圧したりする刑事ではなく、日常会話をしているうちに相手がどんどんしゃべってしまう。「落としの柳」という役は一徳さんにぴったりだと思って、想像しながら書いたと思います。一徳さんがやるとまた説得力があるんです。素晴らしかったです。一徳さんにしか表現できない世界ってありますから。長くお付き合いさせていただいているので、なんとなくその世界がわかるところもあるんです。だから、期待以上のことになってきますよね。

Q:次の作品でも共演を期待してしまいます。

次、何かあった場合にそれにふさわしい役柄があればいいですけど、そうじゃないものをお願いするのは失礼なので、そのときにどうなるか。次の作品のことはまだ具体的には考えていないんですけど、この作品がひと段落したら何か考え始めているかもしれないです。

Q:常に次のことに向かっていく活力は、どこからくるんですか?

どうなんでしょう。あまり振り返るタイプではないので過去は全部、笑い話。いつもこれから先、未来に向かってエネルギーを使っていくタイプではあるんです。それにしても何が自分をここまで動かすのか。割と「やった感」がないんですよ。確かにいろいろやってはいるんだけど、「何をやったか」と思うとたいしたことはやってないなという気持ちに襲われる。そうすると「何かやらなきゃ」って思う。それがずっと続いています。やっているんだけど、やってないに等しいんじゃないかと思う自分がいるんです。


水谷豊

彼に触れた多くの人は役者としてだけでなく、人間としての水谷豊に魅了されることだろう。おごらず、常に謙虚。「大変さこそ楽しみたい」「過去を振り返らず、未来にエネルギーを使いたい」そして、数々の名作を残し続けていながら、「自分はまだ何もやってないに等しいんじゃないか」と言ってのける。「もっとやれるぞ。こんなものじゃない」そうともとれる大先輩の力強い言葉に身の引き締まる思いがした。

(C) 2019映画「轢き逃げ」製作委員会

映画『轢き逃げ -最高の最悪な日-』は5月10日より全国公開

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