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『運び屋』クリント・イーストウッド インタビュー

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『運び屋』クリント・イーストウッド インタビュー

自分を80代だと思ったことはない

取材・文:猿渡由紀

若く美しい人がちやほやされるハリウッドメジャーの世界では、年齢と共に良い役が減っていく。それは伝説の人クリント・イーストウッドにとっても同じだ。駆け出しの時から監督業に興味を持っていた彼は、近年もっぱら裏方に徹しているが、「興味深い役があればやる」と言い続けてきた。そして今、新たに『運び屋』の主人公アールにめぐり会ったのである。この男は実在の人物で、彼より年上の90歳。ふとしたきっかけでメキシコの麻薬カルテルの運び屋を務めることになり、この年齢にして新たな発見をしていく役に挑戦した心境を語った。

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麻薬運び屋の老人に共感

クリント・イーストウッド

Q:この映画は、「The New York Times Magazine」に掲載された記事がベースになっています。その記事についてはご存じでしたか?

事件については聞いていたが、記事を読んだのは脚本を読んだ後だった。あの記事のほかに、彼が逮捕された時のニュース映像なども見たよ。それらが頭を離れなくなった。この男についてもっと知りたいと思ったが、残念ながら、彼を直接知る人と話すことはかなわなかったんだよね。あの記事には、彼がデイリリー(ユリ科の花)を育てていたことなんかは書かれていたものの、ほかにあまり情報がなく、私たちで肉付けするしかなかった。

Q:そして、仕事に夢中になるがために家族をおろそかにする人物にしたわけですが、その点については共感できましたか?

ああ、とても共感したよ。その要素がなかったら、私はこの映画を作らなかったと思うね。あのテーマは私が前にも扱ってきたこと。どの映画を作るかというのはニワトリと卵みたいなものとも思う。もともとこだわりがあるテーマだからやるのか。それとも考えたことがなかったが、掘り下げてみたいと思ったからなのか。そのどっちもあると思う。とにかく、私自身も、仕事のために家族のイベントを欠席するようなことはしてきたかもしれないと認めるよ。それでもこの映画のアールほどではないがね。

Q:アールを嫌う娘を演じたのは、あなたの実の娘であるアリソン・イーストウッドです。家族についての話に家族で共演するのは、まさにぴったりだったのでしょうか?

あの役に娘を提案したのは、キャスティングディレクターなんだ。私が「この役には誰がいいかな」と言っていたら、「あなたの娘さんはどうでしょう」と言ってきたんだよ。私も「それはいいね」と言った。娘と共演するのは、ものすごく久しぶりだった。『タイトロープ』(1984)に出た時、彼女はまだ少女だったよ。娘は、映画を監督したりしたし、飼い主のいない動物の保護活動などをしていて、とても忙しいようだ。映画にはもうあまり出ていない。今作に出ることを、楽しんでくれたように思うよ。

本作は『グラン・トリノ』の延長線上にある

クリント・イーストウッド

Q:今作には少し『グラン・トリノ』(2008)との共通点も見られる気がします。

あるかもね。脚本家が同じだし。それに、どちらも、新しいことを学ぶうえで、歳を取りすぎているということはないということを語るものだ。

Q:これらのキャラクターのどこが好きでしたか?

『グラン・トリノ』で私が演じたキャラクターは、人種差別主義者だった。だが、あの年寄りの男は、ストーリーを通じて変わるんだよ。そして最後には、自分がもともと嫌っていた人たちのために命を捧げることまでする。そんな話を私は聞いたことがなかった。『運び屋』は、その延長線上にあると私は思っているよ。

ブラッドリー・クーパーとの関係

クリント・イーストウッド

Q:今作で最も魅了されるシーンのひとつに、ブラッドリー・クーパー演じるベイツ捜査官との朝食のシーンがあります。ベイツは、この老人を目の前にしても、その人が自分の捜している男だとは想像もしていません。そこでアールは、家族との時間を犠牲にしている彼に説教まですることになります。

あれは年寄りがやりそうなことだよね(笑)。自分ができもしなかったことを、やれと説教するんだ。アールはまたメキシコの麻薬カルテルの下っ端の男にも、人生にはもっとやるべきことがあると説教する。

Q:ブラッドリーの監督デビュー作『アリー/スター誕生』を、どう思われましたか?

すばらしいと思ったよ。あれはもともとワーナー・ブラザースが私に監督しないかと持ちかけてきたものだ。主演女優にビヨンセが提案されて、私は彼女と会うこともした。彼女は良い人だったが、スケジュールが多忙で、「1か月撮影をして、2~3か月休み、また戻ることはできますか」と聞かれた。そんなことをしたら、スタッフをキープしておくのにとんでもないお金がかかってしまう。それでダメだと言った。その頃、私も別のプロジェクトに心を惹かれ、そのままになっていたところ、ブラッドリーが監督したいと言ってきた。私は賛成したが、彼が主演女優にレディー・ガガを提案してきた時は、やや反対だったよ。だけど完成作を観たら、彼女はとても良かったよね。ブラッドリーが正しかったということさ。彼には、「彼女がやってみせたのは事実だけれども、彼女にそれができると見込んだのは君だ」と言ってあげた。

健康の秘密は寿司?

クリント・イーストウッド

Q:今作では、あなたの実年齢より上の90歳の男性を演じています。

私は80代(88歳)だが、そのように感じることはない。だから80代でいるというのがどんなことか、わからないんだよ。アールを演じるにあたっては、祖父を思い出そうとした。私が子供の頃、祖父は腰を曲げていたのを覚えている。古い記憶なので、その通りできたかどうかは自分でもわからないけれども。

Q:あなたの若さの秘密は何ですか?

寿司かな(笑)。まあそれは冗談として、私は健康な食生活を送っている。緑茶を飲むし。ビールも飲むけど2杯程度だ。それ以上はやらない。ワークアウトもする。ゴルフもまだやるよ。でも、ゴルフというのはマゾなスポーツだよね。すごく一生懸命練習せねばならず、でも、結果を出せるのは持って生まれた才能を持つ人だけだ。そういう奇妙なものなのに、わかっていつつ、またやってしまう(笑)。


クリント・イーストウッド

同じ敷地内の自分のオフィスからこのインタビューの部屋に歩いてきた時も、イーストウッドの背筋はピンとしていた。事前に、耳が多少遠いので大きな声で質問するようにとは言われたものの、鋭い回答といい、ユーモアのセンスといい、頭がとてもシャープなのは明白。この調子で、これからも、カメラの後ろでも、前でも、どんどん映画を作ってほしいと、あらためて思わされた。

(C) 2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

映画『運び屋』は3月8日より全国公開

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