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『宵闇真珠』オダギリジョー 単独インタビュー

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『宵闇真珠』オダギリジョー 単独インタビュー

芝居は即興が一番面白い

取材・文:柴田メグミ 写真:日吉永遠

『欲望の翼』『恋する惑星』など1990年代の香港映画ブームの火付け役のひとり、撮影の巨匠クリストファー・ドイルが監督(共同監督:ジェニー・シェン)と撮影を手がけた、少女と異邦人の出会いの物語『宵闇真珠』。主演はワールドワイドに活躍し、来年公開予定の長編監督デビュー作でもドイルとタッグを組むオダギリジョーだ。時代に取り残されたような香港の漁村を訪れ、少女と惹かれ合う男を表現した彼が、その多才ぶりやドイルとの深い関係性を明かした。

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「即興」に勝るものはない

オダギリジョー

Q:素性が知れない男を演じるにあたって、ドイル監督からは「何もしないこと」を要求されたそうですね。

もともとクリスもジェニーも、どちらかと言えばハプニングを好む監督だと思うんです。それは言い方を変えると、台本どおりに画をつくっていく通常の撮影作業以上に、たとえ台本に沿っていないとしても、現場で起こる何かをフィルムに捉えていきたい監督、という感じがありました。だから台本に書かれていることを丁寧に表現するような芝居ではなく、もっと即興的な、台本を超えた芝居を見せてほしいと言われているような気がしていました。芝居をしないで、と言われたことはたぶん一度もありません。むしろ「台本なんか気にしなくていいから、好きなようにやってくれ」と、毎日言われていましたね。その日に撮るシーンについてジェニーがいろいろ説明すると、クリスが「ジョーに余計な説明をするな」と言うんですよ。真逆のタイプというか、本当に右脳と左脳のような関係。そんなふたりの現場で起きていることをどう感じて、いかに広げていくか。それが今回、自分のやるべきことでした。

Q:準備をしていかれないのは、役者さんにとって逆に難しいのではないでしょうか?

今回は台本もほとんど覚えていかずに、わかっているのかわかっていないのかくらいの感じで臨みました。結局、芝居をずっとやってきた者としては「即興」に勝るものはないんです。「即興」といっても、「その場のノリ」ということではなく、もっと「感覚的なことや存在そのものの在り方がどう影響するか」ということですね。例えば子供や動物などは、こちらがいくら緻密に計算したとしても、一緒に芝居を組み立てることは不可能に近いですよね。むしろ彼等の存在そのものが魅力的ですし、観客は彼等がどんなことを感じているかに興味を持ってしまうじゃないですか。今回はクリスもジェニーも台本を超えたところの何かを求めていましたから、即興的に何が起こるかということを楽しむ為にセリフも覚えないようにしたということですね。それは簡単・難しいの話ではなく、どういう方向性でモノを創りたいかの違いだと思います。

衣装のイメージはミュージシャン

オダギリジョー

Q:今回演じられた男はバックグラウンドが語られませんが、どのように捉えて、何を意識して演じられましたか?

実は、台本の時点では一応バックグラウンドが幾つか書かれてあって、撮影もしたんですけど、編集でそういった説明を削ったんですね。だから完成形では、不思議な旅人のようなキャラクターになっていますけど、現場ではもちろんみんな僕の役柄を理解していました。演じるうえでは、男が関わる女の子や少年とのあいだに何が生まれるんだろうという好奇心のようなものが根底にきっとあったと思います。

Q:衣装やヘアスタイルもオダギリさんならではと感じましたが、ご自身のアイデアでしょうか?

結果的にはそうなりますね。日本で台本を読んだときから、僕がイメージするキャラクターに沿った衣装を日本で集めて、香港へ持って行ったんです。そして衣装合わせをして、これでいこう、となりました。僕のイメージを、クリスたちが信頼してくれたのだと思います。ただ僕が衣装を集めた時点の台本では、ミュージシャンという設定だったんですよ。だから完成作の、職業すらわからない旅人のような人として考えると、もうちょっとやり方があったのかなとも思いますが、僕が用意したのは初期の設定にあったミュージシャンとしての衣装です(笑)。

Q:衣装まで自ら揃えることは、やり甲斐に繋がりますか?

やり甲斐というより、責任かなと思います。自分が引き受けた限りは、少しでもいいものにしたい気持ちがありますし、自分のフィルターを通して役が広がっていくほうがいいじゃないですか。そういう意味でも、自分のイメージするものを監督と話し合いながら、広げたり捨てたりしていきたいですね。

Q:海外作品では、その傾向がより強まりますか?

いえ、国はどこであろうと関係ないですね。日本映画でもそうです。特に台本には、かなりうるさいかもしれないですね。やっぱり納得できないことは演じられないので、話を頂いた時点から気になることがあったらとことん話し合って、落としどころが見えないのだったら引き受けない、というタイプですね。

軽いノリで自作曲も提供

オダギリジョー

Q:日本語のセリフも登場しますが、それも撮影現場で生まれたものですか?

たぶん、その場で適当に合わせたんだと思います。クリスやジェニーからは、最初に「(セリフは)何語でもいいよ」と言われていました。僕は英語の台本をもらっているんですけど、英語でもいいし、そのほうがラクなら日本語でもいいと。だから日本語と英語を織り交ぜ、その場の雰囲気で使い分けていましたね。

Q:衣装やセリフのほかにも、オダギリさんのアイデアが生かされた点はありますか?

自分の創った曲を提供しています。1曲ですけど、自分からのアイデアというよりは、気に入ってくれたから「いいよ、どうぞ使って」という感じでした。たぶん飲みながら、「最近創った曲なんだ」とクリスに5、6曲、聞かせたんだと思います。

Q:音楽もとても印象に残る作品ですが、どのシーンでしょう?

(少女役の)アンジェラ(・ユン)が男の家へ来て、鏡の前で話すシーンですね。軽いノリで決まったことでしたから、僕はどのシーンで使われるのかも知らなかったんです。できあがった作品を観たら、「ああ、ここで使ったんだ」と驚きました。

Q:まさにアジアンビューティーなアンジェラさんとは、撮影現場でどんな時間を過ごされたのでしょう?

どんな話をしたかはあまり覚えていないですけど、よく食べ物をくれました。“餌付け”されていましたね(笑)。ロケ地の大澳(タイオー)村は練りものが有名なので、出店で買ってきては僕にくれたり、ベビーカステラや、いろいろ食べさせてくれました(笑)。

Q:共演者としての印象はいかがでしたか?

とても透明感があって、繊細さが前に出ているように感じました。うまく言えないですけど、表現者ってやっぱり、どれだけ繊細でいられるかだと思うんです。図太い感覚だと、表現できないことも多いので。そういう意味でも、アンジェラはとても今後が楽しみな女優さんですね。

何も変わらない!?

オダギリジョー

Q:表現者として長年活躍されていますが、その道のりを振り返って、変化などを感じますか?

何も変わってないですね。昔から、言ってることも変わってないですし。20歳そこそこの頃からいっぱしに、台本に文句言ってたんですよ(苦笑)。今は40代だから、みんな普通に聞いてくれますけど。同じことを20歳で言ったり台本直しに参加したり、よっぽど生意気だったろうなと思いますね(笑)。

Q:来年、長編映画監督デビュー作が公開されます。楽しみにしている映画ファンに、仕上がり具合など、いま教えていただけることはありますか?

10年前に書いたホンをようやく撮る気になって、クリスが撮影監督に入ってくれているんですけど、参加してもらって本当に良かったなと思います。自分も含めてですが、日本人のカメラマンだったら、日本の美しさを見慣れ過ぎていて、きれいなはずなのに気づかなかったり、見落としてしまったりすることがいっぱいあると思うんです。それをクリスはちゃんと、これは“日本の美”だと教えてくれますから。クリスの目を通して日本の美しさを捉え、自分も改めて発見させてもらいましたね。お互いに信頼しきっているからこそ、いい仕事ができた気がします。


オダギリジョー

日系ボリビア人学生役をまるで違和感なく演じきった『エルネスト』でも、高いプロ意識を発揮したオダギリ。彼本来の人間的魅力が引き出された『宵闇真珠』では、ドイル節全開の「トロピカル・ノワール」な世界に溶け込み、ヒロインのみならず観客を惹きつけてやまない。いつまでもブレない姿勢とエッジィな感性。飄々(ひょうひょう)としながらも、にじみ出る大人の余裕や男の色香。今作には、「何も変わっていない」と自ら語る彼の不変の魅力とともに、キャリアを重ねた今ならではの魅力が詰まっている。

映画『宵闇真珠』は12月15日より全国順次公開

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